2004N716句(前日までの二句を含む)

July 1672004

 妻に供華ぽとんと咲かす水中花

                           細見しゆこう

語は「水中花」で夏。コップや瓶などに水を入れ、その中に圧縮した造花を入れて花を咲かせる。昔はよく玩具屋や夜店などでも売られていたが、最近では手に入れるのがなかなかに難しくなってきた。私は刮目すべき発明品だと思ってきたけれど、もはや時代が受け付けなくなったということか。句の「供華(くげ)」は仏前に花を供えること、あるいはその花を言う。べつに作者は、生花の代わりに水中花を供えたのではあるまい。おそらくは、亡くなった奥さんが、この季節になると好んで咲かせていたのだろう。当時の作者は「またか」と一瞥をくれた程度だったかもしれないが、亡くなられてみると、妙に水中花が懐しくいとおしい。たまたま売っているのを見かけて買い求め、仏前にいま供えている。開く様子を眺めているうちに、うっすらと涙を浮かべている様子は、「ぽとんと咲かす」の表現から容易に想像がつく。と同時に、作者の孤独な暮しようが目に浮かんでくるようだ。そういえば、東京あたりでは今日は早くもお盆(新暦)の送り火である。日本の夏は盂蘭盆会もあるし、原爆忌や敗戦日も重なっているので、どうしても死者のことをいろいろと追想する季節となる。そんな日本の夏に「ぽとんと咲かす水中花」は、その意味からも哀切きわまりない心の響きを増幅して読者の胸に迫ってくる。『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)




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